2016年02月27日

飼いゾンビ日記・3 ぬめ男とお散歩

 前に日記を書いたのは2月の初頭だから、
もう一月近く経ってしまった事になる。
 
 ぬめ男は、僕に回し蹴りをくらわされたのがよっぽど怖かったらしく、
しばらくは僕の顔を見るとびびっていたようだが、もうすっかり元通りだ。
 僕も、お母さんにこっぴどく叱られてしまった。
 多分、ぬめ男がかわいそうだからじゃなくて、
裂けた脇腹に腸を押し込んで縫うのが大変だったからだろうけど。

 今日は少し暖かかったので、夕方、久し振りにぬめ男と散歩に出かけた。
ゾンビに運動は必要ないので、わざわざ散歩させる必要もないんだけど、
そこはペットとのコミュニケーションというヤツだ。

 最近ではゾンビをペットにしている人も増え、公園や川岸を歩いていると、
首輪とハーネスをつけたゾンビと一緒に歩いている人をよく見かける。
 
 そういう人とは、年が離れていても、初対面でも、
なんだか仲間のような気がするから不思議だ。

 自然と「こんにちは」という言葉が出てくるし、
世間話やゾンビの飼い方について情報交換が出来たりする。
ゾンビ同士がじゃれあったりすることもある。

 gahag-002695.jpg

 少し前、腰の曲がったおばあさんが、三十代半ばくらいのオスのゾンビと
公園のベンチで休んでいたので、こんなおばあさんがゾンビを飼っているなんて
珍しいなぁと思いながら話を聞いてみた。

 なんでも、そのおばあさんの息子さんが事故にあって亡くなってしまったため、
おばあさんは息子さんと年格好の似たゾンビに、息子さんの名前をつけ、
暮らし始めたのだそうだ。

「いまはこの子がいてくれるから寂しさもまぎれてますけどねぇ、
この子と出会わなかったら、今頃わたし、どうなっていたことやら・・・」

 おばあさんは、エプロンのポケットから、万国旗を取り出す手品師のように
ずるずると豚の腸を取り出して、そのゾンビにあげながら、
そう言って寂しそうに笑った。そして、ぬめ男にも、豚足を分けてくれた。
 
 そうか・・・ペットを飼うにはいろんな理由があるけれど、
ゾンビはもとが人間なだけに、こんな人もいるんだなぁと思うと、
僕はもっともっとぬめ男をかわいがってあげなくちゃ、という気持ちになった。

 亡くなった息子さんの代わりに、ゾンビに息子さんの名前をつけて飼うのは、
正直、少しどうかとも思ったけど、息子さんが自分より先に死んでしまうという事は、
僕なんかには想像もつかないほどつらい事なんだろうな・・・。
 
 そのおばあさんとゾンビ(満という名前だそうだ)には、
それからも時々公園などで会う。
 今日は会わなかったけれど、今でもふたり仲良く、
この街のどこかでひっそりと暮らしているんだろう。

夕焼けの街.jpg

 ぬめ男とふたり、僕たちの街を見下ろす高台の公園で夕陽を眺めながら、
ふとそんなことを思った。

posted by 和矢 at 02:13| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする