2016年12月26日

クリスマスにクリスティを

ここしばらく、「よいこの毒草入門」ばかり書いていて、
しかも最後の更新が9月末という、恐ろしいことになっていました。
本当に3ヶ月なんてあっという間ですね。
これじゃあ1年があっという間なのも、さもありなんです。

さて、もう過ぎてしまいましたが、昨日はクリスマスでした。

そして、クリスマスと言えばクリスティです。

いや、これは洒落でもなんでもなくて、
ミステリの女王、アガサ・クリスティ在命中は、
毎年クリスマス・シーズンに「クリスマスにクリスティを」
というキャッチフレーズで、新作が発売されていたんですよ。

で、ぼくも久し振りにクリスティを引っ張り出して、
読んでみました。

あ、コチラのブログでは言ってなかったかもしれませんが、
ぼくは日本では宮部みゆき、海外ではクリスティの大ファンなのですよ。
クリスティに至っては、80数冊の作品をほぼ読破、
トリックも犯人も、ほぼ覚えているにも関わらず、
何度も読み直してはぐすぐす泣いたりする、というマニアっぷりです。

その中でも、特に好きなのがこれ!

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『象は忘れない』

いまは文庫で出ていますが、リアルタイムで買ったため、
なつかしのハヤカワ・ミステリなのがまたいい味出してます。

この作品は、クリスティの晩年も晩年の作品で、亡くなる数年前の作品です。
次作の『運命の裏木戸』が、女史の実質最後の作品となったわけですから。
(その後、『カーテン』『スリーピング・マーダー』が
発表されていますが、それらの2作品は、女史が元気なころに書かれ、
死後発表するようにと、生前に指示されていたものです)

クリスティの作品と言えば、孤島に集められた10人が、
全員「殺害」されてしまうという、よくもまぁそんな設定を
考えたなぁという『そして誰もいなくなった』や、
「フェアか、アンフェアか」で話題となった『アクロイド殺し』が
有名です。

また、それらがあまりにも衝撃的だったため、
少し影が薄くなってしまっていますが、
映画にもなった『オリエント急行殺人事件』
『ABC殺人事件』『三幕の殺人』など、
「うわやられたぁ!」というトリックの作品も多いのですが、
晩年の作品は、かなり色合いが変わって来ます。

そして、ぼくが好きなのは、どちらかというと、
トリックは派手ではないけれど、何か心に染み入るものがある、
晩年の作品なんです。

それらの作品に共通しているのは、「過去の犯罪を扱うケースが多い」
ということ、そして「犯罪の動機が『愛』である」ということです。

この『象は忘れない』で扱われるのも、
一応は決着がついたようになっている、老夫婦の心中事件です。
その当時の関係者から話を聞き、真相を探っていくわけですが、
その動機は「愛」であり、遺産や保険金などの金銭は絡んで来ません。

また、この作品と同じくらい大好きな作品に
『五匹の子豚』というのがあるのですが、
その作品も、十五年前に決着がついた、しかも犯人が罪を認め
獄死している、という形で決着のついた殺人の真相を探る、
というものです。

十五年前、殺人の起きた日に、その場に居合わせた五人の人物の供述と
レポートから「真犯人」を探るわけですが、
この作品を初めて読んだときには衝撃を受けました。

犯人は、もちろん意識的に嘘をつきます。

そして、そうでない人間も、無意識のうちに他人の言動を
ジャッジした言葉を吐きます。
あの人がそんなことをするはずがない、という前提のもとに
証言をしたり、かと思えば疑わしいと思っている人間の行動は
思わせぶりに証言をしたりするわけです。
それは「嘘」ではないかもしれませんが
「真実」でもなく、捜査を混乱させます。

アリバイだの、遠隔で殺人を犯すトリックなどよりも複雑な、
「心理トリック」とでもいうのでしょうか。

そして、真実が明かされたとき、
なぜ被害者は殺されなければならなかったのか、
なぜ加害者は殺人を犯さなければならなかったのか、
を考えると、様々な形の「愛」が見えてきます。

あぁ、こんなことを書いていると、また読み返したくなってきました。

皆さんも、クリスマスは過ぎてしまいましたが、
年末年始にクリスティ、いかがですか?




posted by 和矢 at 07:04| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月09日

『青の炎』ネタバレあり

ここのところ、「よいこの毒草入門」だとか
「飼いゾンビ日記」だとか、眉をひそめられるような内容の
ものばかりを書いていたので、久し振りに本のレビューなんぞを。

貴志祐介の『青の炎』です。

いきなり話が飛びますが、人との出会いというのは面白いもので、
ぼくと貴志祐介という作家との出会いは、もう十年以上も前のこと。

映画『 ISOLA 十三番目の人格』の原作者として、でした。

ただ、原作を読むには至らずでしたので、正確には名前を知った程度の
出会い方です。

そして、長い年月が経ち、たまたま映画『悪の教典』を観たぼくは、
サイコパスの教師、蓮実聖司、通称ハスミンの虜となり、
「どういう人間が、こんな人物を生み出したのだろう」と
原作を読み、あっという間に貴志祐介のファンになったのです。

というワケで、今回は『青の炎』

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この小説は、『悪の教典』と同じように、犯罪者目線で描かれています。
が、決定的な違いは、主人公が高校生であり、
犯罪の動機が「大切な人を守ること」であることでしょう。

もちろん、彼はサイコパスではありませんから、犯行に至る前の葛藤、
犯行後の後悔、などが、非常にリアルに描かれています。

いまどきの高校生であり、ちょっとばかり生意気で、繊細な主人公には
「忘れていたけど、高校時代って、自分もこんな風にイキってたよな〜」と、
しっとりと感情移入が出来ました。

また、主人公の犯罪の動機が
「大切な人を守り、以前と同じような、平和な生活を取り戻すこと」
であったとしても、いったん犯罪を犯してしまった以上、
たとえその罪が発覚しなかったとしても、
自分自身が以前と同じ人間ではなくなってしまうわけです。

決して以前と同じ生活は戻ってこないんですよ。

主人公自身、それがわかったうえで、それでも犯罪という
手段を選んでしまうところ、余計に切なく感じます。

読んでいる最中に知ったんですが、この作品も
映画化されていたんですね。

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青の炎

主役は「嵐」の二宮和也、ニノです。
2003年の作品なので、彼が19歳の頃の映画。

原作を読み終わって、早速観てみたんですが、
これがまたすごく良かったです。

二宮くんの、繊細で、ちょっとすねたような感じが、
主人公にピッタリ。

また、東儀秀樹の音楽も泣かせてくれます。

原作にはない、主人公のモノローグのフェードアウトで
映画は静かに終わります。
この静かな終わり方がねー、切ないんです。

これ以外のラストはないんだろーなーとわかってはいても、
やっぱり切ない。

小説が良ければ映画は見劣りしてしまうケースが多いですが、
この作品に関しては、ぼくは好きです。

雨の日に観るのがいいかな。。。
posted by 和矢 at 03:42| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月03日

『黒い家』ネタバレあり

先日、『悪の教典』を読み終わり、
すっかり貴志祐介のファンになってしまったぼくは、
早速第二弾に取りかかることにしました。

実は貴志祐介の名前は、『悪の教典』よりも以前に
『黒い家』や『ISOLA 十三番目の人格』で知っていたので、
第二弾は『黒い家』で !

と張り切って読み始めたのはいいんですが。。。

なんなんでしょう、この、ねっとりとまとわりつくような不快感は。。。

いや、決して面白くないわけじゃないんです。

むしろ小説としては、とても面白くて、ずんずん読み進めてしまいます。

ただ、ね。

同じサイコパスものでも、『悪の教典』とは毛色が違い過ぎる !

ではここで、ちょっと二作の違いを挙げてみましょうか。

まず、『悪の教典』のハスミンの目標は、
「学校を思い通りに牛耳ること」です。
殺人やその他の犯罪は、その邪魔になるヤツを排除する手段なんですね。
で、対象に対し、特別強烈な感情を抱くこともなく、
淡々と排除していきます。
手段は色々ですが、まぁ一番の目玉は、やっぱりクライマックスの、
猟銃による大量殺戮ですよね。

それに対し、『黒い家』の場合、目的は保険金です。金です。
この時点で、非常に現実的。
また、犯罪に用いる凶器というのが、刃渡り五十センチの出刃包丁だとか
糸鋸だとか、身近にありそうなもの。

コレ、いやですよ。

例えばぼくは、五十年以上生きて来て、
猟銃で撃たれた経験はまだありません。
実物を見たことすらないくらいです。
でも、包丁で手を切った経験は何度もあります。
ついこの間も、庭木の剪定をしていて、鋸で指を切ったばかりです。
なので、その痛みはよーくわかりますし、
細ーい刃の包丁を見ると、背筋がぞわぞわします。

要は、『悪の教典』は、物語として面白いし、
ハスミンのキャラも興味深く、魅力的ですらあるけれど
それは、まったく自分とは関係のない世界の話だからなんです。

対して『黒い家』は、本当に身近にありそうなコワさ。
こういう人、ホントにいそうだし、
ヘタに関わったら、自分も出刃包丁で生きたまま解体されそう
と思わせるリアルさ。

しかも、ぼくらみたいな仕事をしていると、
「ん ? この人、ちょっと・・・」
というタイプの人に遭遇する率は非常に高いです。

映画版の『黒い家』で、西村雅彦が主人公の勤める保険会社に
何週間もの間、日参し、自殺した息子の保険金がまだ出ないのかと
言い続けるエピソードがありますが、
クレームをつけるわけでもなく、怒鳴るわけでもなく、ただ

「そっかぁ〜、まだなのかぁ〜、そっかぁ〜、まだなのかぁ〜」

と体を揺らしながらつぶやき続けるシーンは、
実際に、そういう人と会った時の、あの異次元に引きずり込まれそうな、
世界が歪んで見えるような、独特の感覚を思い出してしまって、
体が暗くて深ぁ〜い穴の中に落ちていくような恐怖を感じました。

そんなわけで、ただいま、ちょっと気持ちをスッキリさせるために、
宮部みゆきの時代小説を読んでおります。

おかげさまで、大分立ち直りました。

posted by 和矢 at 02:51| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする